本えいが遅報

本と映画の感想ブログ

第005感 円城塔 著 『Self-Reference ENGINE』・・・確かに存在して、確かに何もなかった。

本書は著者、円城塔氏の処女作です。第7回小松左京賞の最終候補作品で、文庫化に当たって2短編が追加されていて、計22短編で構成されています。とっても難解でした。

 

まずは著者の紹介から。

東北大学理学部物理第二学科を卒業、東京大学大学院総合文化研究科博士課程を修了。いくつかの大学でポスドクを務めていらっしゃいました。中卒の直木賞作家さんがいらっしゃいますが、ほとんど小説家は文系の大学やそれに近い職業の方がなるものだと思っていました。とはいえ文系、理系で括ること自体がもう古い考えなのかもしれませんが・・・。「もらっといてやる」でワイドショーを賑わせた田中慎弥氏が大きく取り上げられてしまいましたが、今年の第146回(2012年)芥川賞を『道化師の蝶』で受賞。

 

感想を一言で表すなら「難しい」です。ジェイムス、リタやトメさん等々のいろいろなキャラクターが出てきますが、フロイトも出てきます。フロイトといえばあのフロイトで、そんなフロイト先生も爆笑しそうな展開。

 

はじめはタイムパラドックスをテーマにしたSFかと思っていましたが、読み進めていくと、どうにも人間以外のナニカが出てくる。実は何も出てきていないのかもしれない。そんな感じです。ストーリーが進んでいないように見えて、ジェイムスとリタが何回も登場して展開します。「日本文字」なんていう、日本語とはちがう言語も登場します。現実の日本は旧日本諸島になってしまった模様です。ナニカですら解析できない日本文字に対する紹介文かと思いきや、最後まで読むとそうだったり、そうじゃなかったり。

 

終盤に配置されている短編で1つ考えさせられる問題があります。

「この平面宇宙に、お前と限りなく似た女の子が存在するかどうか」

ここでいう「お前」はリタのことで、最終的にリタが1つの解を出すのですが、それを解説されている間にもいろいろ考えてみました。でも、リタの答えには納得。そして、最後のリタのたった1人だけでの行動にも納得です。

NCBI-BASTというDNA塩基配列分析では、98%一致すると新種の可能性があって、100%一致すると同じ属の生物であると同定できるとか。そんなことを以前、生物学のすごい方にお聞きしたことがありますが、1年ほど前のことで情報の確かさは確率P=1 ではありませんので保証できかねます。この曖昧な記憶で「限りなく似た女の子」を考えてみると、数直線上で限りなく近い2つの点を0.50mmのボールペンで打てるかと言われているようなものです。少しでも違うと99.99%になるので、これは「限りなく似た」なのかどうか。

 

うーん。話がよくわからなくなってきたところで、終わりにしようかと思います。やっぱり、本書を読んでみることをオススメします。確かにこの本は難しいですが、それはそれでも、実は簡単なのかもしれません。

 

うん? これも超越知性体の仕業なのかも。