本えいが遅報

本と映画の感想ブログ

第006感 綾辻行人 著 『十角館の殺人』・・・孤島ミステリ!

今回は『館シリーズ』でベストセラーを続けている綾辻行人氏の『十角館の殺人』です。小題にもある通り、孤島で起こる殺人事件を巡っての読者vs作者のミステリ勝負です。

 

なぜ本書を読もうと思ったかというと、PS1で発売された『ナイトメア・プロジェクト YAKATA』というRPGの監修を著者がされていたことを知ったことが挙げられます。以前にこのゲームをプレイしたことがあったのですが、登場する建物の奇抜さが何とも印象に残っていました。

 

館シリーズ』からもお分かりになるように、各巻ごとに異なる館が登場します。本書では十角館(じゅっかくかん)。その名の通り、10の区分からなる十角形の館です。玄関、厨房とお手洗いの3部屋を除いた7部屋が登場人物それぞれの寝室で、十角形の中央部分にはこれまた十角形のテーブル。そんな十角形尽くしの館で起こる殺人事件。

なぜ7人がその奇妙な孤島、角島に行くかと云いますと、彼らは彼らでとある大学の推理小説(ミステリ)研究会のメンバー。半年前に起こった角島での連続殺人事件に興味を持った彼らが、合宿と銘打っての小旅行。読んでいて面白いと思ったのが、推理研の彼らについた名前です。エラリィ、ポゥ、ヴァン、カー、などなど。海外の著名な推理小説家の名前を彼らのニックネームとして呼び合っているという設定。

 

そして、だれが大学の仲間たちを殺していくのか、はたまた、本土からボートでわざわざやってきた物好きな外部犯か、それとも、半年前の殺人事件の犯人がまだ残っているのか・・・。物語は角島だけで進むのではありません。推理研の角島に行かなかったメンバーのもとに半年前の事件の被害者とされる人物からの「とある告発文」が届きます。その謎を解明してくと、角島には更なる謎が残されているらしく・・・?

と、本の紹介はこれくらいにしておきます。

 

400ページ以上ある少し厚い小説でしたが、流れるような展開に一気読みのペースで進めました。読者には角島と本土の両方の視点から今回の事件を眺めることができる特権があります。双方には推理研の頼もしい「探偵」がいるので証拠集めには事欠きません。といっても、それだけで「犯人」がわかるような作品ではありません。逆に、2つの視点から見ることができることで、犯人が分かりづらくなっているのかもしれません。終盤、とある人物のセリフの衝撃はかなりのものでした。

 

事件、それも殺人を扱う推理小説において重要なファクターが「フーダニット」、「ハウダニット」「ホワイダニットであると私は思っています。日本の推理小説ホワイダニットを軽視する傾向にあるという批判を聞いたことがありますが、確かにその感は否めないと思っています。登場人物の中でアリバイのない者を探偵が追い詰め、「証拠を見せろ!」と言われて証拠を華麗に出す。そこで自供を始めて犯行動機を一人語りする。ホワイダニットを重視する作品ならば、犯行動機をほのめかすような記述がどこかに必ずあり、再読した時にその記述を発見して驚くということがあるのではないでしょうか。

 

本書ではホワイダニットが丁寧に描かれていましたが、ハウダニットに少し無理があるかと思うところもありました。また、探偵がよく言う「さぁ、証拠は出揃った。皆を集めてくれないか」というような、作者が読者に対して「全ての要素は書ききった。これから犯人を言うけどいいかな」のメッセージがなかったことが少し残念でした。私の経験不足でそのメッセージに気付かなかっただけの可能性が高いですが。

 

とはいえ、連続殺人事件を少しの無駄もなく表現した本書は一読、ではなく、何度読んでも面白い作品なのは間違いありません。オススメです!