本えいが遅報

本と映画の感想ブログ

第011感 養老孟司ら 著 『環境を知るとはどういうことか』・・・流域から考える

本書は、かの有名な養老孟司先生と、環境保全活動をされている岸由二先生の対談をまとめたものです。章立ては以下の通りで、

1、五月の小網代を歩く

2、小網代はこうして守られた

3、流域から考える

4、日本人の流域思考

5、流域思考が世界を救う

6、自然とは「解」である

 

冒頭のカラーページで様々な生き物の写真が載っています。アサヒナカワトンボ、アカテガニ、フキバッタ・・・。山の中には石をひっくり返すだけでも様々な生き物が見られます。人間と他の生き物が共存しようとしている、この大地を「流域」という枠組みで考えようというのが本書の内容です。

 

例をだして考えます。現在の「地域」という枠組みで陸地を考えると、どうしても生態系が分断されてしまいます。河川の中流の地域では、中流の生態系を中心とした街づくりや生活様式になります。

ここで、流域の考え方を持ち出してみると、山から流れ出た水が様々に合流して大きな河川となる。この合流した河川が海にたどり着くまでの一連の領域を、その周辺の「流域」と考えることとします。こうすれば、山と川と海の生態系すべてを一括して対処することができます。この流域思考が、自分の住む環境を考察する際の良い見方になるとのこと。

 

対談形式の本は今まで読んだことがなかったので、どのようなものかと身構えてしまいましたが、何のことはなく、テレビの対談を聞いているかのようでした。また、お2人とも話の中で繰り出すたとえがわかりやすくて面白い。

 

読んでいて一番心に残った文が「鳥や魚が少ないのは、川の水が汚い方と思っているのです。だから川の水をきれいにして、魚や鳥を増やそうというわけですが、実はこれも、時には大嘘なのです」(本書144ページ)です。私も日頃から、精製水に生き物は住まない。住むとしたら、藻が漂っていたり生物の死がいがあったりというような環境なのではないかと考えていました。また、川に沈んでいる石を触ると「ヌメッ」としていますが、これは石にいる付着性珪藻が分泌する滑走液であることがほとんどです。別に生活排水が石の裏にこびりついているというわけではありません。

 

環境問題を、ただ単に水が汚いことや生物が少ないことで判断してはいけないという考え方が身に付きます。これからも人間が地球に住み続ける限り、環境問題とは切っても切れない関係になるので、新しいものの見方を知る意味で有意義な本だと思います。