本えいが遅報

本と映画の感想ブログ

第019話 喜多喜久 著 『ラブ・ケミストリー』・・・全合成がしたくなーる

今回はSFでラノベでミステリーで有機化学で、そしてラブコメな『ラブ・ケミストリー』です。

主人公は有機化合物の構造式を見ただけで最適な合成ルートが頭に浮かぶという特殊能力を持つ、有機化学を専攻する東大院生の藤村桂一郎。有機化学の歴史を大きく動かしかねない異能の力を持った主人公ですが、彼の研究室に新しく入ってきた秘書の真下美綾に一目ぼれ。それがきっかけでこの能力をなくしてしまう・・・。こんな始まりで幕を開ける本書ですが、様々な要素が含まれています。

 

 

SFの要素としては、上述した全合成の力。有機化学を勉強していけば合成ルートが導き出せるようにはなりますが、主人公は導き出すのではなく閃くのだとか。

ラノベの要素としては、死神の登場。カロンという女性の死神が主人公の前に現れます。別に空から降ってくるわけではありませんが。カロンは主人公の能力を取り戻す手助けをしてくれます。

ミステリーの要素としては、カロンの依頼人探しです。文章のところどころに一人称が「私」の場面が現れます。この人物がカロンに対して主人公の能力を取り戻すようにと依頼します

有機化学の要素としては、全合成と実験です。著者が全合成の研究室出身だからでしょうか、聞き覚えのある実験器具がいくつも登場します。夜遅くまで実験をして下宿先に帰るというサイクルが実験系大学院生の生活です。

最後にラブコメです。主人公の藤村は意中の真下美綾に思いを伝えられるのか。そして2人の関係の結末やいかに!?

 

 

本書は第9回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞しています。また、著者は東京大学大学院薬学系研究科修士課程を修了、現在は大手製薬会社に研究員として勤務。

舞台が東京大学農学部とのことなので、赤門で有名な本郷キャンパスの直ぐ北にある弥生キャンパスがモデルになっています。大学院では東京大学大学院農学生命科学研究科でしょう。実在しない研究室に主人公は所属していますが、モデルとなった研究室には目星が付いています。ちょっと探せばすぐにインターネットで調べられるので、これを読んだ方も見つけてみてはいかがでしょうか。

 

有機化学を題材にした小説はほとんど、というか読んだことがありませんでした。本書を読んで有機はやっぱり面白いなと思いましたし、高校で有機化学を教える前に読ませるというのはどうかなんて考えたりもしました。

って、それは言いすぎですが、サラッと読める1冊です。うーん、こんな研究室にいけたらなー。