本えいが遅報

本と映画の感想ブログ

第026感 外山滋比古 著 『思考の整理学』・・・知り方ではなく、考え方が学べる。

 本書は、主に大学生から社会人を対象とした知識の利用法をまとめた本です。

 

 

1983年に刊行された本が基になっていますが、その内容は30年ほど経った現代でも覚えて損はないものになっています。

 

 

章立ては6つに分けられていて、それぞれの項目の先頭は、

  1. グライダー
  2. 醗酵
  3. 情報の"メタ"化
  4. 整理
  5. しゃべる
  6. 第一次的現実

となっています。

 

第1章では学校教育の問題点、グライダー人間が増えてしまったことを指摘しています。グライダーと云えば、高いところから大きな羽を広げて飛んでいくものです。それを学生に例えています。グライダーは風向き次第である程度の進みたい方向に飛べますが、飛行機ほどではありません。つまり、教師が「ああしろ、こうしろ」と言いつけた作業はこなすのですが、自分で行いたい(行きたい)事がわからない学生が増えてしまったのだそう。先生と教科書に引っ張られながら学校生活を送ることが原因になっています。これからの社会では創造性が高く自分から飛び立てる人間が必要だと筆者は述べています。

 

第2章では実際に考えるための方法を提案しています。この章で一貫している方法として「寝かせる」というものがあります。多くの本を読んで詰め込んだ知識はすぐに実践できるものではなく、ある程度の時間をおいて整理しないと自分のモノにならないのです。さらに、1つのことを考え込みすぎるのも考え物です。セレンディピティという、思いがけない別の発見が科学技術の発展に貢献することがままあるからです。また、ある程度の速読を推奨しています。分からないところを速く読んで、全体の文章をとらえると意外と理解できることがあるからです。

 

第3章では得た知識のまとめ方が主となっています。知識を系統化して高度化する情報のメタ化と、第1,2,3次情報の運用法を紹介しています。時間を経たせて情報を寝かせるためのメタ・ノートの作り方が書かれていますが、これは好き嫌いがわかれそうな方法です。他にも、興味を持った分野の本を集めるだけあつめて、その後で一気に読む「つんどく法」があります。多くの本を読むことで、その分野では通説もしくは常識となった考え方や、逆に仮説どまりの考え方がわかるようになります。重複して全ての本に登場する説ならばその分野では通説なのでしょう。常識となっているところは流し読みでも構わないので、もし10冊を読もうとして最初の1冊に4日かかるとしても、そのあとは読むスピードが上がり30日かからずに読み終えることができるでしょう。私にはノートやカードよりもつんどく法が合いそうです。

 

第4章では知識をまとめた後の処理について述べられています。知識を詰め込めるだけ入れた後は、その整理をしなければなりません。アウトプットとして忘れることで、これまでの知識をより引き出しやすくなります。雑然とした倉庫では身動きが取れないのと同じことです。さらに、「寝かせる」のと同様にして様々な作品を古典化させることも重要です。また、とにかく書いてみることも肝要です。細かい表現や文法などは気にせずに、全体の流れを考えて一気に書き上げます。その後に時間をかけて、ゆっくりと推敲するのです。

 

第5章ではしゃべることの重要性について説いています。かの有名な『平家物語』は琵琶法師が語って広まりましたが、その文は法師が歌うたびに洗練されていったそうです。声に出してみることで、その文章の言い回しの悪さに気づくことがあります。同分野、異分野問わずに談義を交わすことも重要です。話すことで起こる新発見もあるでしょう。

 

第6章ではコンピュータについての考察が印象に残りました。産業革命によって機械が工場から人間を追い出し、最近ではコンピュータが事務作業から人間を追い出そうとしています。いまだ人間特有で持つ能力が創造性です。それで第1章のグライダー人間と飛行機人間の話に戻り、自分で考える人間の重要性を考えさせられました。

 

 

長々と本書の内容を書いていきましたが、しゃべることの重要性は私もよく実感しています。研究発表に出席すると質問の時間がありますが、参加者全員の前で質問することはだいぶ勇気がいるのです。しかし、わかっている分野でないと質問することは容易ではありませんが、専門外の分野で質問することもお互いのメリットになります。

以前読んだ本に、「好みの女性が発表している研究では絶対に質問する」という、少しふざけているけれどもなるほど感心させられる目標がありました。つまり、質問が思い浮かばなくてもいいから挙手して、立つまでに質問を考え出すのです。発表が終わった後にその女性のところに行き、詳しくお話を伺って一石二鳥らしいです。

 

 

30年も前の本なのに全く色あせることなく読める文章を書かれた著者・外山滋比古氏には驚きです。