本えいが遅報

本と映画の感想ブログ

第031感 綾辻行人 著 『人形館の殺人』・・・今までとは違う館

著者による『館』シリーズの4作目です。

 

 

今までのシリーズでは、孤島や山奥などの外界から隔絶された世界が舞台でしたが、今回は京都府内のとある館が舞台です。"緑影荘"と名付けられたこの館には、数多くの人形がいます。それらは主人公である飛龍想一の父、高洋によってつくられ、館内にある6体の人形は「動かすな」と高洋が遺言を残して自殺したいわくつきです。6体以外の人形は高洋のアトリエに残され、廊下にのっぺらぼうの人形が6体も立っている様から、アパートの住人から人形館と呼ばれる始末。

 

 

 

本書の帯に"シリーズ最驚の異色編!"と書かれていた通り、前3作が数日で終わるのに対して本作は7月から2月もの間の物語です。また、主人公として描かれている想一の一人称でほとんどが展開していきます。さらに、何者かの心情を表す文章が時折り描かれ、何やら奇妙な気持ちにさせます。想一の身の回りで起こる奇怪な事件も、そのことに一役買っています。

 

 

登場人物の一人である辻井雪人は、著者である綾辻行人氏の名前をもじったものでしょう。辻井の職業も小説家で、「人形館」を名付けたのも彼、ということになっています。探偵役である島田壮司はあまり登場しません。プロローグで島田と想一が知り合いということが語られますが、ほとんどの出来事が想一の住む人形館で起こります。

 

 

物語の全体で描かれている謎は、想一の頭に残っている風景についてです。人形館に引っ越してしばらく経ってから、彼を悩ませる遠い、古い記憶がたびたび登場します。様々に混ざり合った風景が何を意味するのかを主人公とともに考えていくのです。

 

 

重要なトリックを解かれたときに、「あぁ、そうか」と、前作までよりかは少ない感動を覚えました。本書では比較的親切にヒントを与えてくれているので、読者である私にもある程度のギミックがわかってしまいました。とはいえ、著者の文章力は素晴らしいものです。真相を伝えずに一読させ、再読の時に「おぉ!」とさせてくれます。

本書もその例にもれず、人形館で起こる事件の真犯人の心情をつづった文が、もう一度読んでも面白かったです。