本えいが遅報

本と映画の感想ブログ

<新書> 福岡伸一 『生物と無生物のあいだ』

「読みはじめたら止まらない 極上の科学ミステリー 生命とは何か?」

帯に書かれたこんな文句に惹かれて本書を手に取りました。

 

いつ読もうかと思いながら今まで積んでいたのですが、STAP細胞で世間が騒いでいるのでこの機会にと読み進めていきました。

 私が講義で習った生物の定義は3つあります。

  • 外部と隔絶するための膜をもつ
  • エネルギーを自身でつくることができる
  • 自己を複製できる

 

生物か否かの議論では、よくウイルスが話題にのぼります。

ウイルスは殻をもち、宿主に寄生することで自己を増殖させます。しかし、生体内でのエネルギー通貨であるATP(アデノシン三リン酸)を生成することができないので生物の定義からは外れます。

 

本書でも、自己複製できるという定義だけでは不十分としてウイルスは無生物だと主張しています。

 

題名が『生物と無生物のあいだ』であるので、その明確な界面を明らかにしてくれるかと思っていました。しかし実際には、生物学における最近の潮流を自身のアメリカ留学時代の研究生活を織り交ぜて紹介しているのがほとんどでした。

ニューヨークの街並みが本文の冒頭から描写されていましたが、蛇足のように感じました。ロックフェラー大学がどうの、そこのホスピタル棟がどうのと、意味のない情景描写が多く、読んでいて水を差された気分になりました。確かに、小説家でもない生物学者の文章としては上手だと思いましたが、長々とした書き方に少し退屈してしまいました。

 

良かった点は、生物の難しい話を身近なたとえ話にしていたところです。後半のGP2という糖たんぱく質の説明では、欠損した遺伝子を欠けたジグソーパズルに例えていました。GP2をコードするDNA部分を完全に取り除いた(ノックアウト)ときには生物は正常に成長するが、そこへ一部のDNAを取り入れた(ノックイン)ときには生育異常がみられる研究結果の紹介では、1枚のジグソーパズルの6辺の内、2辺のふくらみがなくなった状態をノックインとし、1枚のパズルそのものをなくした状態をノックアウトと表現していました。

 

これは的確な例えだと思います。生物や化学などの小難しい話題を簡単な物事に置き換えて伝えるのは、同じ専門領域の研究者としか話さないという人にとっては難しいものです。

簡単なたとえをわかりやすく伝えられるのは、少年時代の著者が様々なことに興味を持っていたことがエピローグで語られているように、いろんなことに目を向けている著者ならではだからだと思います。

 

個人的な考察ですが、GP2を完全に欠損したマウスが正常な活動をしたのは、リン酸欠乏状態マウスがDGDG(ジガラクトシル ジアシルグリセロール)を正常種以上に生体内で合成することでDGDGをリン酸の代替物にしているのと同様なのではないかと思います。

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)