本えいが遅報

本と映画の感想ブログ

第004感 伊藤計劃 著 『虐殺器官』・・・ドミノピザの不変性

私のフェイバリットである『虐殺器官』がいよいよ、というより、もう登場。この文をまとめるにあたってまた読んでしまいました。月初めに読んだはずなのに・・・・・・

 

"泥に深く穿たれたトラックの轍(わだち)に、小さな女の子が顔を突っ込んでいるのが見えた。"

本文の頭にこの一文。そのほか、非常にヴィヴィッドな描写がよくあらわれます。

 

舞台設定は9.11後の世界。サラエボに核が落ち、発展途上諸国では内乱、紛争や虐殺が絶えない。主人公は、暗殺を専門としているアメリカ情報軍特殊検索群i分遣隊に所属しているクラヴィス・シェパード大尉。

 

<ーあの車両で見張っていた連中は応答しません。医療ステータスによると、死んでます。俺にしても、外に出ようとしたときに左腕を肩から吹っ飛ばされちまいました>

<ええ、痛いですよ。痛いとは感じられないが、痛いのは認識できてます。でも全く問題ないんですよー>

 

 身体にナノマシンを導入した人体に対して痛覚の調節ができる技術が開発されていて、戦士としての能力を低下させない程度に痛覚が遮断される。痛いことが認識できても、「痛っ!」とたじろいでしまうようなことがなくなる。

 

発達しすぎた技術に支援されたクラヴィスは、身体的能力は抜群であるが精神の成長が技術によって阻害されている。現代にもそういうきらいはあるのではないだろうか。著者はその「現代にある」ような些細な現象を、現実的な考証とプロットで「近未来」にまで昇華させています。

 

クラヴィスの暗殺対象として毎回リストアップされるのがジョン・ポール。ジョンが滞在する先々で虐殺が起こる。

 

なぜ虐殺が起きるのか(ホワイダニット)。どうやって虐殺が起きるのか(ハウダニット)。ジョンは実在するのか、それは一人なのか複数なのか(フーダニット)。

SFとして銘打たれてはいますが、解説にある通り、ミステリな一面も持っています。

ハウダニットの詰めが甘いと評されることがありますが、著者の作品に対するリアリズムがそれを許さなかったのではないかと思うことがあります。これは『ハーモニー』の解説中の著者インタビューからも見られることです。

 

本書を読むと、カフカが読みたくなることは間違いありません

 

クラヴィスが起こす最後の行動はある意味当然と言えるのかもしれません。ジョンのホワイダニットとの対比で考えられますが、どちらが正しい行動なのでしょうか。道徳的に「善い」と断ずることはできません。

ドミノピザが時折登場しますが、最後のドミノピザがどうなるのか、乞うご期待!