本えいが遅報

本と映画の感想ブログ

第022感 綾辻行人 著 『迷路館の殺人』・・・私も迷路に迷い込みました。

著者による『館』シリーズも本書で三作目。

今回こそは探偵・島田潔よりもはやく犯人を見つけるぞ、という意気込みでページをめくった私ですが、本書帯にある

    <それでも読者は騙される!?>

という文句そのままに、騙されてしまいました。

 

 

タイトルの通り、舞台は迷路館。推理小説界の巨匠である宮垣葉太郎に可愛がられている弟子たち4人が一堂に会した迷路館で、その迷路館を舞台にしたミステリを4人が競作していくなかで・・・?

 

本書は作中作中作の構成をとっています。冒頭で風邪をひいている島田に送られるのは、鹿谷門実 著 『迷路館の殺人』です。現実事件の"推理小説的再現"として出版された作品が、作中作で進められていきます。その先の作中作となるのが、競作する 4人のワープロに打ち込まれた文章です。

 

 

帯には他にも、<犯人は誰か?>や<作者は誰か?>とあり、鹿谷門実が作中作の誰なのかも謎解き要素の一つです。届いた『迷路館の殺人』を眺めながらの島田の心情が鹿谷門実さがしの伏線になることは読んでいて間違いないなとは思っていましたが、解決パートとなる、島田と鹿谷との会話は

   「あぁ、もう、騙されたー!」

ぐらいの勢いで読んでしまいました。解決パートを読めば冒頭の島田による描写が納得いきますし、再読したくなること間違いなしです。

 

作中作を読み終えた島田の解決編は、まるで「ニヤニヤして差し出されるねじれた輪っかを、(あ、メビウスの輪だな)と思って解いたら三回転半にひねりも入っていた」ような感じです。題名の通りに思考がグルグルと迷路に迷ったかのようになります。

 

 

読みはじめる前にパラパラとめくると気づくかもしれませんが、本書の作中作には奥付があります。著者名、発効日、発行者、発行所と、忘れてはならないのが括弧付けの、

   ”この頁は乱丁ではありません”

という記述。立ち読みで乱丁を確認する読者に対する注意書きです。

 

 

本書のミソはやっぱり叙述トリックです。鹿谷の作品にも、綾辻氏の作品にも(どちらも綾辻氏の作品であることには変わりないのですが)、2度楽しめる要素が満載です。

1度目は料理を味わい。2度目はレシピを覗く。次はだれが殺されて、犯人は誰なのか。ストーリーとしてのスリリングさを味わった後、著者が作品を完成させるためにした苦労を覗き見ます。

こんなミステリは再読しても楽しいですね。