本えいが遅報

本と映画の感想ブログ

第027感 伊藤計劃 著 『The Indifference Engine』・・・Project Itohはまだ、終わってない。

本書は、著者が早世して未完のままとなってしまった屍者の帝国』が収録されています。

コンテンツは10個で、

で構成されています。

 

 

The Indifference Engine』はゼマ族の少年兵がホア族との関係に苦悩する物語。"ホア族は人間じゃない"、"連中はゼマ族とは違う"と上官に散々と言われてきた「ぼく」が、停戦後の社会でホア族を見ても憎しみの感情しか生まれなくなってしまいます。公平化機関(インディファレンス・エンジン)なる組織に出会い、「ぼく」は心に注射をされる。それからの「ぼく」はホア族に対する悩みがなくなり、民族間の違いを感じることがない生活を送っていくのだけれども・・・?

というあらすじです。本作では民族同士で争いが起こる理由をゼマ族とホア族の対立によって表現されています。どちらが正しいのか、どちらも正しくないのか、正義か悪か。名前の登場しない「ぼく」はゼマでもホアでもなく、ただの「ぼく」なのです。"歴史があるから戦争が起こるんじゃないぞ。戦争を起こすために歴史が必要なんだ。"は本作で上官が言うセリフです。最近の国際情勢を考えさせられる作品です。

 

『セカイ、蛮族、ぼく』は少女の"遅刻遅刻遅刻ぅ~"で始まります。"べ、べつにあなたに好意があって作ってきたとかそういうのじゃ絶対にないんだからねっ。"と委員長が主人公に言い放ちます。このラノベ的テンプレートともいえるようなセリフを書き連ねて著者が私たちに伝えたいこととは。

 

『フォックスの埋葬』では、フォックスとスネークの因縁を巡る『メタルギア ソリッド3 スネーク イーター』のその後が描かれています。著者の小島秀夫好きがうかがえる一作です。

 

屍者の帝国』は円城塔氏が引き継いで書くと発表した作品。本書では、著者の遺稿をそのまま掲載しています。作風も文体も違う2人の合作がどのように反応して昇華するのか、不安と期待が入り交じります。