第032感 高橋昌一郎 著 『理性の限界―不可能性・不確定性・不完全性』・・・意見の決定に最良のものは存在しない。
2012年11月01日現在で『知性の限界』、『感性の限界』とともに著されているのが本書『理性の限界』です。
章立てとして、
序 章:理性の限界とは何か
第一章:選択の限界
第二章:科学の限界
第三章:知識の限界
となっていて、さまざまな考えや社会的立場(大学生、会社員、カント主義者、運動選手、ロマン主義者等々)の人々が「理性の限界」をテーマとしたシンポジウムに参加するという形式で展開していきます。
序章では「運動の限界」についても討論が交わされています。短距離走のスタートピストルが鳴ってから0.1秒以内に反応したものはフライングとみなされるルールがあります。しかし過去には、ピストルの音に反応してスタートしたのにフライングとみなされてしまったアスリートの話が出てきました。
第一章では、「選択のパラドックス」という、投票方法によって結果が全く異なってしまう現象が書かれています。オリンピックの実施都市投票やアメリカの大統領選挙の実例を取り上げて、身近に感じるように工夫されています。
第二章では、地動説と天動説の関係からはじまり、アインシュタインの相対性理論、ハイゼンベルクの不確定性原理やシュレーディンガーの波動方程式などの現代物理学の基礎となった発見が話し合われています。特に、ハイゼンベルクの不確定性原理という、微小粒子の速度と位置を両方とも正確に求めることは不可能である原理についての考察は面白いものでした。
第三章では、ほとんど最後まで「ぬきうちテストのパラドックス」を基に話が進められています。
- いずれかの日にテストを行う。
- どの日にテストを行うかは、当日にならなければわからない。
の2つの条件で、いつテストが行われるかを生徒側が考えるというものです。最後のほうはなかなか難しい話のように感じました。
はじめて聞く単語がたくさん出てきますが、本書では「会社員」や「運動選手」などの一般人が分かるように簡単に説明をしてくれています。また、「カント主義者」や「論理学者」が話に熱中して脱線することがありますが、「司会者」がこの話は別の機会に・・・、とまとめてくれます。この白熱した討論の中で、さらに難解な言葉が出てきます。このことは、「興味を持った方はこれらの言葉を調べてみるのがオススメです」と著者に言われているような気がします。参考文献の数にも驚かされますが、興味深い研究分野ですので、何冊かその中から読んでみたいと思います。